2026年10月2日、総務省統計局は「労働力調査(基本集計)2026年8月分」を公表しました。
結果の概要の1ページ目には、完全失業率(季節調整値)は2.5%で、前月に比べ0.1ポイント上昇した、と書かれています。
失業率と聞くと「仕事が無くて困っている人の割合」を思い浮かべがちです。
ただ、この統計の「完全失業者」には条件が3つあり、そのうちの1つが「仕事を探す活動をしていた」です。
働きたいと思っていても、調べた週に仕事を探していなければ完全失業者には入りません。
しかも、そういう人は分母の「労働力人口」からも外れます。
この記事では、2.5%という数字が何を数えた結果なのかを、統計局の公表資料から書き出します。
何が報じられたか
8月分の結果の概要によると、完全失業率(季節調整値)は2.5%で、前月より0.1ポイント上昇しました。
男性は2.8%、女性は2.3%です。
完全失業者数(原数値)は180万人で、前年同月に比べ2万人減り、13か月ぶりの減少でした。
就業者数は6849万人、非労働力人口は3915万人で、非労働力人口は54か月連続の減少です。
同じ日の共同通信の配信記事は「有効求人倍率、横ばい1・18 8月、失業率は上昇」と見出しを立て、本文で完全失業率が前月比0.1ポイント上昇して2.5%になったと伝えています。
記事の中に、完全失業者の定義の説明はありませんでした。
大和総研のレポート「2026年8月雇用統計」(同日)は、失業者数が前月から10万人増えたこと、その中心が自発的な離職であることを書いています。
同じ発表を読んだ3者が、「上昇」「10万人増加」「2万人減少」と、向きの違う数字を出しています。
どれも資料に書かれている数字です。
違いがどこから来るかは、後の「報道との差分」で並べます。
原典に当たる
労働力調査は、毎月約2,900の調査区から選んだ約4万世帯を対象にした標本調査です。
就業状態を調べる15歳以上の人は約10万人です。
調べるのは「月末1週間(12月は20〜26日)に仕事をしたかどうか」で、この1週間の行動だけで1人ひとりを分類します。
分類の順番は「労働力調査の解説」に書かれています。
まず、調査週間に少しでも仕事をした人を「従業者」とします。
統計局のQ&Aは、月末1週間に1時間でも働いた人は就業者になると説明しています。
次に、仕事を休んでいる人のうち要件を満たす人を「休業者」とします。
どちらでもない人のうち、次の3つをすべて満たす人が「完全失業者」です。
- 仕事がなくて、調査週間中に少しも仕事をしなかった
- 仕事があれば、すぐ就くことができる
- 調査週間中に求職活動をしていた(過去の求職活動の結果を待っている場合を含む)
このどれにも当てはまらない人は、すべて「非労働力人口」になります。
完全失業率の式は、統計局のQ&A(F-6)では次のとおりです。
完全失業率(%) = 完全失業者 / 労働力人口 × 100
労働力人口は、就業者と完全失業者を足した数です。
8月の原数値では、労働力人口が7029万人、完全失業者が180万人でした。
季節調整をしない値で割ると約2.56%になります(筆者の計算)。
見出しの2.5%は季節調整値です。
求職活動の範囲は広くとられています。
ハローワークへの申込みのほか、求人サイトを見ての応募、学校や知人への紹介依頼、事業所への直接応募、登録型派遣への登録も含まれます。
統計局のQ&A(F-8)も、完全失業者はハローワークに登録している人に限らないと書いています。
一方で、働きたいけれど探していない人の扱いは、Q&A(F-9)がはっきり書いています。
「仕事を探す活動をしていない人は、完全失業者には含まれません」。
この定義は国際労働機関(ILO)の基準に合わせたもので、Q&A(J-6)によれば、ILO基準で統計を作っている米国やEU諸国なども、仕事が見つかりそうにないので探していなかった人を失業者には含めていません。
報道との差分
まず、10月2日の同じ発表から出た3つの数字を並べます。
| 出どころ |
使った数字 |
系列 |
比べた相手 |
| 統計局 結果の概要(1ページ目) |
完全失業者180万人、2万人減少 |
原数値 |
前年同月 |
| 統計局 結果の概要(季節調整値の章) |
完全失業者177万人、10万人増加 |
季節調整値 |
前月 |
| 共同通信 |
完全失業率2.5%、0.1ポイント上昇 |
季節調整値 |
前月 |
| 大和総研 |
失業者数10万人増加 |
季節調整値 |
前月 |
向きが逆に見えるのは、系列と比較相手が違うからです。
前年同月と比べるなら季節の影響は打ち消し合うので原数値で足ります。
前月と比べるなら季節調整値を使います。
統計局のQ&A(F-7)は、完全失業率は月々の動きが重要なので季節調整値を主に公表し、人数は水準が重要なので原数値を主に公表している、と説明しています。
どちらかが誤っているわけではありません。
次に、完全失業率の外にいる人の数です。
これは毎月の基本集計には載らず、四半期ごとの詳細集計に載ります。
2026年8月10日に公表された4〜6月期平均では、次のようになっていました。
| 区分(2026年4〜6月期平均) |
定義(要約) |
人数 |
| 完全失業者 |
1週間以内に求職活動をした失業者 |
185万人 |
| 失業者 |
求職活動の期間を1か月以内に広げた数 |
208万人 |
| 潜在労働力人口 |
非労働力人口のうち、1か月以内に探したが2週間以内なら就業できる人、または探していないが就業を希望しすぐ就業できる人 |
38万人 |
| うち就業可能非求職者 |
探していないが就業を希望し、すぐ就業できる人 |
30万人 |
| 追加就労希望就業者 |
週35時間未満で働いていて、もっと働きたく、増やせる人 |
209万人 |
この人数を使った指標が「未活用労働指標」です。
失業者だけを数えたLU1は2.9%、失業者と潜在労働力人口を数えたLU3は3.5%、追加就労希望就業者まで含めたLU4は6.4%でした。
分母も、LU3とLU4では労働力人口に潜在労働力人口を足した数に変わります。
同じ四半期で、数え方を広げると2.9%から6.4%まで動きます。
非労働力人口のうち「就業希望者」は205万人いて、探していない理由で最も多いのは「適当な仕事がありそうにない」の79万人でした。
ただし、205万人の全員がすぐ働けるわけではありません。
すぐ就業できる人に絞った就業可能非求職者は30万人です。
「探すのをやめた人が失業率に入っていない」という指摘は定義の上では正しいのですが、その人数は「就業希望」で数えるか「すぐ就業できる」で数えるかで、何倍も変わります。
なぜそうなったか
求職活動を条件にするのは、統計局のQ&A(F-2)によれば、定義を厳密にするためです。
ふだんの状態を本人に聞く「有業者方式」は、時期の影響を受けにくい反面、回答者の意識に左右されやすい。
一定期間の行動で分ける「労働力方式」は、その週の偶然に影響される反面、定義が厳密にできる。
ILOは後者を採り、日本もそれに合わせています。
「働きたいか」は気持ちですが、「この1週間に応募したか」は行動として確かめられます。
この仕組みには、知っておきたい性質があります。
完全失業者が探すのをやめると、その人は非労働力人口に移り、分子と分母から同時に1人ずつ減ります。
たとえば8月の原数値で、完全失業者180万人のうち10万人が探すのをやめたとすると、170万人を7019万人で割って約2.42%になります(筆者の計算例。
実際にこう動いたという意味ではありません)。
誰も仕事に就いていなくても、率は下がります。
逆に、景気がよくなって探し始める人が増えると、仕事が見つかるまでの間は率が上がることがあります。
この弱点は統計局も認めています。
Q&A(J-6)は、雇用形態が多様になり、完全失業率などの従来の指標だけでは労働市場を十分に計測しきれない場合が出てきた、と書いています。
2013年のILO決議を受けて、2018年1月から調査事項を変え、未活用労働指標を詳細集計で出すようになりました。
つまり「求職をやめた人」を見る数字は、すでに公表されています。
それでも見出しに出るのが完全失業率なのは、公表の仕組みから説明できます。
基本集計は毎月、約4万世帯の結果として出ます。
詳細集計は四半期ごとで、調査対象はその約4分の1の約1万世帯です。
8月分の基本集計(10月2日)と4〜6月期の詳細集計(8月10日)は、公表日も対象期間も違います。
毎月の雇用の記事が完全失業率と有効求人倍率を並べるのは、同じ日にそろう2本だからだと考えられますが、これは資料からは確かめられない推測です。
分からなかったこと
4〜6月期の詳細集計のLU4(6.4%)を見出しにした報道は、今回の検索では見つけられませんでした。
見つからなかったことは、報じられていないことの証明にはなりません。
また、統計局の基本集計にも4〜6月期の完全失業率がありますが、詳細集計とは標本が違うため数字がずれます。
今回はその差を表で確認していません。
共同通信の記事にある「悪化は5カ月ぶり」は、2026年4月以前の季節調整値を今回取得していないため、確かめていません。
8月分の結果の概要には原数値の完全失業率らしき表がありますが、PDFの文字の並びから表の行を特定しきれなかったため、本文では人数から割った筆者の計算値を使いました。
出典
一次情報
報道・分析(比較対象として使用)
同じ日に公表された求人側の数字は、有効求人倍率1.18倍は、ハローワークの窓口で数えた数字で扱いました。
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