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「ランサムウェア被害123件で半期最多」。同じページの年別グラフでは、まだ最多ではない

9月時事通信が「ランサム被害、最多=上半期、手口巧妙化で拡大―警察庁」いう見出しの記事を配信しました。本文は「身代金目的でデータを暗号化するウイルス『ランサムウエア』被害が今年上半期(1~6月)確認され、統計の残る以降では半期ベースで最多となった」書いています。

元になった資料は、警察庁サイバー警察局の「令和上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」です。全187ページのPDFを開いて、この何を数えたなのかを確認しました。

原典の記述は報道のとおりだった

資料の9頁に、次の一文があります。

令和上半期におけるランサムウェアの被害報告件数は であり、半期の件数としては、統計を取り始めた令和下半期以降、最多となっている

冒頭の「はじめに」にも、ほぼ同じ文が置かれています。いう数字も、半期で最多という判断も、原典のとおりです。報道が数字を作ったわけでも、盛ったわけでもありません。

確認したかったのは、その先です。

123件に入っていない9件がある

資料の統計編139頁に、半期ごとの実数を積み上げた棒グラフがあります。棒は2色に分かれていて、青が「ランサムウェア」、橙が「ノーウェアランサム」です。グラフから読み取った実数が以下になります。

期間 ランサムウェア ノーウェアランサム 合計
令和下半期 21 21
令和上半期 61 61
令和下半期 85 85
令和上半期 114 114
令和下半期 116 116
令和上半期 103 9 112
令和下半期 94 21 115
令和上半期 114 14 128
令和下半期 108 8 116
令和上半期 116 8 124
令和下半期 110 9 119
令和上半期 123 9 132

令和上半期の青は123、橙は9です。本文が書いているのは青だけの数字で、橙の入っていません。グラフの合計はなります。

ノーウェアランサムは、データを暗号化せずに窃取だけを行い、公開すると予告して金銭を要求する手口です。資料の9頁も本文で「ランサムウェアで暗号化することなく、データを窃取した上で機密情報等の公開を予告して対価を要求する手口も発生している」触れています。グラフの下には「※ノーウェアランサムの被害については、令和上半期から集計。」いう注記があります。

つまり「暗号化を伴った被害」件数です。暗号化を伴わない脅迫は、同じグラフの中に別の色で積まれています。時事通信の記事に、ノーウェアランサムへの言及はありませんでした。

半期で切るか、年で切るか

同じ139頁には、年ごとのグラフも並んでいます。こちらの実数です。

ランサムウェア ノーウェアランサム 合計
令和 146 146
令和 230 230
令和 197 30 227
令和 222 22 244
令和 226 17 243

2つのグラフは整合しています。半期の数字を足すと年の数字になります。令和なら、上半期116と下半期110で226。ノーウェアランサムも8と9で17。すべての年で一致しました。

そのうえで、年の列を見ます。ランサムウェア単体の最多は令和です。令和で、届いていません。合計で見ると最多は令和で、令和です。

半期で切れば、令和上半期が最多を更新しています。年で切れば、直近の令和まだ令和超えていません。この2つの数字は、同じ資料の同じ頁に並んでいます。

どちらかが正しくてどちらかが間違っている、という話ではありません。「最多」いう言葉は、どの単位で切るかで指すものが変わる、ということです。資料は本文で半期の数字を強調し、年別のグラフは巻末の統計編に置いています。報道は本文の側を引きました。

比べている範囲は5年半

「統計を取り始めた令和下半期以降」最多、という書き方も原典どおりです。ただしこの系列は12期分、半しかありません。

そして最初の令和下半期はで、次の令和上半期のとは3倍近い開きがあります。統計を取り始めた期の数字を、それ以降と同じ線の上に並べていることになります。「統計開始以降で最多」実際に意味しているのは、この12期の中で最多、ということです。

「被害報告件数」が数えているもの

グラフの表題は「企業・団体等における被害の報告件数」です。報告された件数であって、起きた件数ではありません。

報告するかどうかは、被害を受けた組織の判断になります。したがってこの数字が増えたとき、被害そのものが増えたのか、報告する組織が増えたのかは、この数字だけでは分けられません。資料の中に報告率を推定する記述は見つけられませんでした。

これは資料の欠陥ではありません。警察の統計は警察が把握したものを数える、という構造をそのまま反映しています。読む側が、そういう性質の数字だと知っていればよい話です。

件数より重い数字が同じ資料にある

資料の10頁から11頁には、件数以外の記述があります。

  • 侵入経路はVPN機器が約5割(被害組織へのアンケート結果)
  • 組織規模別では中小企業が約6割
  • 業種別では製造業が約3割、続いて卸売・小売業、情報通信業、不動産、物品賃貸業
  • 復旧に総額以上を要した組織は全体の6割
  • 1か月未満で復旧した組織は全体の5割弱

件数がかという話より、あたりがどれだけ重いかを示すこちらの方が、手を打つ判断には効きます。復旧に1か月以上かかる組織が半分を超えていて、以上かかる組織が6割ある、という数字です。

分からなかったこと

今回、原典から確認できなかったことを書いておきます。

手口別の内訳は確認していません。統計編140頁に手口別報告件数のグラフがありますが、数値までは読み取っていません。資料本文は「二重恐喝が被害の多くを占め」書いていますが、その割合は本記事では扱いません。

令和上半期に、ランサムウェア単体が令和下半期のから下がっています。同じ期からノーウェアランサム集計が始まりました。集計区分の変更で一部が振り分けられた可能性はありますが、資料にその説明はありません。数字の動きから推測はできても、資料からは確認できませんでした。

「被害報告件数」定義について、図表の表題以上の明文の定義を資料内に見つけられませんでした。誰が、どの経路で報告したものを数えるのかは、この資料の範囲では確定できていません。

資料の公表日も、PDF本体には明記がありませんでした。本文に「令和10月施行予定」いう記述があること、時事通信の配信が9月であることから、それ以前に公表されたことまでは分かります。

出典

  • 警察庁サイバー警察局「令和上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(全187頁)9頁、10頁、11頁、統計編139頁 — PDF
  • 警察庁「サイバー空間をめぐる脅威の情勢等」公表一覧 — 警察庁
  • 時事通信「ランサム被害、最多=上半期、手口巧妙化で拡大―警察庁」9月配信(リスク対策.com 転載) — 記事

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