2026年10月、鹿島と大成建設が経団連での活動を120日間自粛すると日本経済新聞が報じました。
経団連が自粛の日数を独自に決めた形には見えません。
120日という数字は、国土交通省が両社に出した営業停止処分の期間と同じです。
この記事では、見出しの手前にある3つの一次資料に当たります。
最高裁の決定文、国交省の監督処分基準、大成建設自身の開示です。
そのうえで、見出しに残ったものと落ちたものを整理します。
何が報じられたか
日本経済新聞(2026年10月26日付の記事)は、次のように書いています。
鹿島と大成建設は、国交省から建設業法に基づく営業停止処分を受けたことを理由に、経団連へ活動自粛を申し出ました。
経団連はこれを承認しました。
期間は2026年11月7日から120日間で、会員企業の会合や政策議論への参加を控えます。
その3日前の2026年10月23日には、国交省の処分そのものが報じられています。
日本経済新聞とNHKの記事によると、両社は2026年11月7日から2027年3月6日までの120日間、民間の土木工事について新しい入札・見積り・契約ができなくなります。
処分のもとになったのは刑事事件の確定です。
最高裁判所第三小法廷は2026年9月14日、両社と元幹部2人の上告を棄却する決定を出しました(令和5年(あ)第395号)。
なお、国交省の報道発表資料の原文は、この記事の執筆時点で取得できていません。
原典に当たる
1. 最高裁決定(2026年9月14日)
決定文によると、問題とされた行為の期間は平成26年4月下旬頃から平成27年8月下旬頃です。
対象はリニア中央新幹線の地下開削工法によるターミナル駅(品川駅・名古屋駅)の新設工事で、発注者の指名競争見積りに向けて、4社の幹部らが受注予定事業者を決め、見積価格の情報を交換したと認定されています。
4社は、年間完成工事高(平成29年3月期)と経営事項審査の総合評点(平成26年3月)でそれぞれ業界1位から4位を占めていたと書かれています。
上告審の争点は、有罪か無罪かの事実関係よりも、法律の要件にありました。
弁護側は、この工事を現実に施工できるのは事前に発注者の技術検討をしていた特定の会社に限られ、そもそも競争が存在しなかったと主張しました。
最高裁はこれを退け、4社それぞれに「役務を供給することが現実的に可能」だったと判断しています。
決定は高裁の判断を「その結論において」是認する形をとり、裁判官全員一致で、裁判長による補足意見が付いています。
決定文の中では会社名が「甲」「丙」と匿名化されており、両社の名前で特定しているのは報道と大成建設の開示です。
2. 大成建設の開示(2021年3月1日)
大成建設が東京証券取引所に出した開示によると、同社と同社顧問は2018年3月23日に起訴されました。
2021年3月1日の東京地裁判決で、同社には罰金2億5千万円、顧問には執行猶予付きの有罪判決が言い渡されています。
同社は無罪を主張していました。
また、公正取引委員会から2020年12月22日に排除措置命令を受けていたこと、同日にその取消訴訟を起こしたこと、対象工事を受注していないため課徴金納付命令は受けていないことも記載されています。
3. 国交省「建設業者の不正行為等に対する監督処分の基準」
2007年の改正版(2007年10月1日施行)では、独占禁止法違反などで刑に処せられた場合の営業停止期間を次のように定めています。
代表権のある役員が刑に処せられた場合は1年間です。
代表権のない役員または政令で定める使用人が刑に処せられた場合は120日以上です。
さらに総則では、公共工事以外の請負契約に関する不正であれば、公共工事以外の営業について処分すると定めています。
不正が土木や建築など特定の工事の種別に限られることが明らかなら、業種を限って処分できるとも定めています。
停止を命じる行為は「請負契約の締結及び入札、見積り等」です。
報道との差分
| 資料・記事 |
見出しに残ったもの |
見出しから落ちたもの |
| 日本経済新聞(10/26) |
「120日間の経団連活動自粛」 |
120日という日数の出どころ |
| 日本経済新聞(10/23) |
「民間土木工事で120日間営業停止」 |
処分基準の区分 |
| NHK(10/23) |
「4か月間の営業停止処分」 |
民間・土木への限定(本文には記載) |
| テレビ朝日系ANN(10/23) |
「土木工事業で120日間」 |
民間工事への限定 |
| 朝日新聞(処分前の方針報道) |
「土木民間工事を営業停止へ」 |
日数 |
| 最高裁決定(9/14) |
(各社とも「上告棄却・有罪確定」) |
争点だった「現実的な供給可能性」の判断枠組み |
選択の面では、どの社も「120日」か「4か月」という期間を見出しに入れています。
省略の面では、処分の範囲が民間の土木工事に限られることを見出しに入れたのは2社で、NHKは本文で触れています。
強調の面では、経団連の記事は「活動自粛」を前に出しており、日数の由来は書かれていません。
最高裁決定の法的な中身は、今回見た見出しのどれにも入っていません。
なぜそうなったか
120日が並ぶ理由。
処分基準では、代表権のない役員または政令で定める使用人が刑に処せられた場合、営業停止は「120日以上」です。
大成建設の開示では、刑事被告人は代表権のある社長ではなく「顧問」とされています。
国交省がどの区分を当てはめたかは、取得できた資料からは確認できません。
ただ、基準のこの区分の下限と処分日数は一致しています。
日本経済新聞によると、同じ事件で有罪となった大林組と清水建設も、2019年2月2日から6月1日まで民間土木工事の営業停止処分を受けていました。
経団連の自粛期間は、その処分期間に合わせて決まったと読めます。
ただし経団連の規程や発表文は取得できていません。
「民間」「土木」に限られる理由。
決定文の発注者は「C株式会社」という民間の会社で、工事は土木工事です。
処分基準の総則は、公共工事以外の契約での不正は公共工事以外の営業を停止し、工事の種別も限定できるとしています。
処分が民間の土木工事に限られるのは、この規定の構造から説明できます。
逆に言えば、見出しで「営業停止」だけを読むと、公共工事や建築工事まで止まるかのように受け取れる余地があります。
最高裁の争点が見出しに入らない理由。
上告審では、有罪かどうかの事実よりも、独占禁止法の「競争の実質的制限」の解釈が中心でした。
決定文では会社名も匿名化されています。
速報の見出しは字数が限られるため、確定という結果を優先し、要件の解釈は本文や専門媒体に回る構造になります。
これは各社の意図を示すものではなく、資料と見出しの差として示すにとどめます。
分からなかったこと
国交省の報道発表の原文は入手できず、処分理由の文言や、基準のどの区分を当てはめたかは確認できていません。
経団連の承認の発表や活動自粛の内規も見つかりませんでした。
今回参照した監督処分基準は2007年の改正版で、その後の改正の有無は確かめられていません。
鹿島の罰金額と同社の開示資料は、一次資料を取得できなかったため書いていません。
大成建設が2021年に起こした排除措置命令の取消訴訟がいまどうなっているかも確認できていません。
出典
- 最高裁判所第三小法廷 令和8年9月14日決定(令和5年(あ)第395号 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反被告事件) https://www.courts.go.jp/hanrei/97059/detail2/index.html (全文 https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-97059.pdf)
- 大成建設「独占禁止法違反容疑事件に係る判決等について」2021年3月1日 https://www2.jpx.co.jp/disc/18010/140120210301471542.pdf
- 国土交通省「建設業者の不正行為等に対する監督処分の基準について」(平成14年3月28日国総建第67号)の一部改正について(2007年10月1日施行) https://www.mlit.go.jp/common/000004882.pdf
- 日本経済新聞「鹿島と大成建設、120日間の経団連活動自粛 リニア談合で」 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2670S0W6A021C2000000/
- 日本経済新聞「鹿島・大成建設、民間土木工事で120日間営業停止 リニア談合有罪で」2026年10月23日 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC237K90T21C26A0000000/
- NHK「リニア談合めぐり 大成建設と鹿島建設を4か月間の営業停止処分 国土交通省」2026年10月23日 https://news.web.nhk/newsweb/na/nd-20261023de64380
- テレビ朝日系(ANN)「「リニア談合」大成建設と鹿島建設を営業停止処分 土木工事業で120日間 国交省」 https://news.yahoo.co.jp/articles/a6c9e8663ab6ba2b0127ab41df0888d47038869a
- 朝日新聞「大成建設・鹿島の土木民間工事を営業停止へ リニア談合で国交省方針」 https://news.yahoo.co.jp/articles/3baaef5549020027cf3383423b44d77d2e928e13
※本記事は報道・公開情報をもとに作成した速報であり、内容が後に更新・訂正される場合があります。
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