日本の労働生産性がOECD加盟国の中で何位か。
毎年12月に日本生産性本部が公表する「労働生産性の国際比較」が、その順位の出どころです。
2025年12月22日に出た2025年版では、2024年の日本の時間当たり労働生産性は60.1ドル、38か国中28位でした。
この記事では、この「28位」が何を何で割り、どの通貨換算で並べた数字なのかを報告書から書き出します。
あわせて、前年の報告書と並べると、同じ2023年についての順位が書き換わっていることも確かめます。
何が報じられたか
共同通信の配信記事(2025年12月22日17時37分、OANDA掲載)は、見出しを「日本の労働生産性28位」とし、本文で時間当たりの生産性がOECD加盟38か国中28位だったと伝えています。
続けて、「統計数値の見直し」で2023年の日本を26位と位置付けたため「順位を二つ落とした」と書いています。
理由としては、人手不足を背景にした非正規労働者の割合の増加と、円安でエネルギーや原材料を海外から買う力が落ちたことを挙げ、「響いたという」と結んでいます。
1時間当たり60.1ドル(購買力平価換算5720円)、OECD平均79.4ドル、1位アイルランド164.3ドル、米国は4位116.5ドルという数字も並んでいます。
1年前の2024年12月16日には、同じ本部が「労働生産性の国際比較2024」を公表しています。
nippon.comは同日、「日本の労働生産性、29位に低迷」という見出しで、2023年の時間当たり56.8ドル・29位、就業者1人当たり92,663ドル・32位を伝えました。
2023年の時間当たりの順位は、2024年12月の記事では29位、2025年12月の記事では26位です。
どちらの記事も、その時点の報告書どおりに書いています。
原典に当たる
2025年版の報告書本文は、労働生産性を次の式で計っています。
労働生産性 = GDP(付加価値)÷ 就業者数(または 就業者数×労働時間)
分子は国全体のGDP、分母は就業者の人数か、人数に労働時間を掛けた延べ時間です。
分母を人数にすれば「就業者1人当たり」、延べ時間にすれば「時間当たり」になります。
データはOECDの公表統計を中心に、各国統計局のデータで補っていると書かれています。
各国のGDPは自国通貨で集計されているので、並べるにはドルにそろえる必要があります。
報告書は、実際の為替レートでは変動が大きくなるため、物価水準の違いを調整した購買力平価(PPP)でドルに換算しています。
購買力平価は、同じ品目を同じ量買うのに各国の通貨がいくら要るかから計算した交換レートで、2024年の円ドルの値は1ドル=95.11円でした。
同じ年の為替レートは期中平均で1ドル=151.37円です。
同じ報告書に、分母と換算の違う3つの順位が並んでいます。
| 指標(2024年) |
分母 |
ドル換算 |
値 |
順位 |
| 時間当たり労働生産性 |
就業者数×労働時間 |
購買力平価 |
60.1ドル(5,720円) |
38か国中28位 |
| 就業者1人当たり労働生産性 |
就業者数 |
購買力平価 |
98,344ドル(935万円) |
38か国中29位 |
| 製造業の労働生産性(就業者1人当たり) |
製造業の就業者数 |
為替レート(前後2年を含む5年の移動平均・147.74円) |
80,411ドル(1,188万円) |
35か国中20位 |
製造業だけ換算が違う理由も書かれています。
OECDなどが出す購買力平価は国全体のGDP用で、産業別の値は公表されていない。
そこで、為替で価格が調整されやすい貿易財の比重が高い製造業に限り、便宜的に為替レートを使う、という説明です。
報道で「28位」と書かれるのは、この表の1行目です。
報道との差分
報告書は毎年、最新のデータで1970年までさかのぼって計算し直しています。
2024年版と2025年版で、同じ2023年の日本の値を比べると次のようになります(2025年版は付表6・付表10から読み取り)。
| 2023年の日本 |
2024年版(2024年12月16日) |
2025年版(2025年12月22日) |
| 時間当たり |
56.8ドル・29位 |
58.6ドル・26位 |
| 就業者1人当たり |
92,663ドル・32位 |
95,838ドル・29位 |
2024年版は、就業者1人当たりの32位を「1970年以降で最も低い」と書いていました。
2025年版の付表では、2023年は29位、2022年が30位です。
2024年版の「最低」は、2025年版のデータでは2023年の順位としては残っていません。
2025年版の付表10から、時間当たりの日本の順位を年ごとに並べると次のとおりです。
| 年 |
2017 |
2018 |
2019 |
2020 |
2021 |
2022 |
2023 |
2024 |
| 順位 |
20 |
21 |
23 |
28 |
28 |
28 |
26 |
28 |
共同通信の「順位を二つ落とした」は、この改定後の2023年(26位)と比べたものです。
2024年版の29位と比べれば、1つ上がった計算になります。
比べる相手を改定後の値にそろえている点で、記事は報告書の注記どおりです。
理由の部分は、報告書の書き方と一致しません。
報告書本文は、2024年に順位が下がった要因として、実質経済成長率が鈍る一方で人手不足を背景に就業者が増え続け、実質の労働生産性上昇率が前年比-0.6%と4年ぶりのマイナスになったことを挙げています。
「非正規」という語は、今回取得した報告書本文・サマリー・プレスリリースのいずれにも見当たりませんでした。
なぜそうなったか
順位が書き換わる理由は、プレスリリースの注記に書かれています。
OECDが随時行うGDPデータや購買力平価の改定と、日本のGDP基準改定(2025年12月8日発表)に伴い、すべての数値を過去にさかのぼって改定した、というものです。
内閣府はこの日、2024年度国民経済計算の年次推計を2020年基準改定値として公表しています。
報告書は別の注で、米国の総労働時間もOECDのデータベース上でさかのぼって改訂されたと書いています。
分子のGDP、分母の労働時間、換算の購買力平価のどれもが、後から動きうるということです。
換算の選び方も、数字の印象を左右します。
時間当たり60.1ドルを円に戻すと5,720円で、これは購買力平価1ドル=95.11円で掛け戻した値です。
同じ5,720円を2024年の期中平均の為替レート151.37円で割ると、約37.8ドルになります(筆者計算)。
ただし他の国も為替レートで換算し直さないと順位は出せないので、この37.8ドルを28位と比べることはできません。
共同通信の記事にある「円安」については、報告書の中で2つの話が分かれています。
製造業の比較は為替レートで換算しているため、円ベースでは上がり続けている日本の値が、ドルでは2018年の97,971ドルから2024年までに18%下がったと書かれています。
一方、見出しの28位は購買力平価で換算した値で、報告書は2024年の購買力平価が95.27円から95.11円へわずかに円高に動いたこと、その寄与が+0.2%だったこと、実勢の為替レートとは逆の動きになったことを注記しています。
水準と伸び率でも見え方が変わります。
報告書は、時間当たりの実質労働生産性の上昇率を2010〜2024年の平均で見ると日本は+0.8%で、主要先進7か国の中で米国に次ぐ2位だと書いています。
順位が低いのは水準の比較で、伸び率の比較ではありません。
分からなかったこと
共同通信の記事にある「非正規労働者の割合が増え」という理由の出どころは、今回取得した公表資料からは確認できませんでした。
記事は「という」と伝聞の形で書き、担当者の説明も引いていますが、どの場での説明かは分かりません。
日本の労働時間にOECDがどの統計を使っているかも、報告書の付表には「Annual labour force survey他」とあるだけで、今回はたどれていません。
2023年の順位の改定のうち、日本のGDP基準改定と購買力平価の改定がそれぞれどれだけ効いたのかは、報告書に分解がなく分かりません。
為替レートで全加盟国を換算した場合の順位も計算していません。
2026年版は、これまでの例では12月に公表される見込みです。
出典
一次情報
報道(比較対象として使用)
同じテーマの記事:実質賃金「7か月連続プラス」の数え方(報告書は、労働生産性の上昇を賃金に振り向ける原資の増加と位置づけている)
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