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「食料自給率37%で過去最低」の見出しを読んだ人へ。米の生産量が増えた年に、なぜ自給率は下がったのか

8月、農林水産省が令和度(度)の食料自給率を公表しました。同じ日、NHKは「食料自給率37% 過去最低に」、共同通信は「度の食料自給率過去最低と農水省」という見出しで伝えています。日本農業新聞の速報は、見出しに「輸入米増加が影響」と添えました。

農林水産省の発表文は、1行目にこう書いています。

令和度食料自給率は、カロリーベースで37%(前年度−1ポイント)、生産額ベースで66%(前年度+2ポイント)、摂取熱量ベースで45%(前年度−1ポイント)

発表された自給率は3つありました。見出しになったのは1つ目だけです。この記事では、37%が何を何で割った数字なのかを、農林水産省の公表資料と「令和度食料需給表」で確かめます。

同じ年度に、自給率が3つある

公表資料(参考1)に載っている計算式を並べます。

指標 分子 分母 令和度 前年度差
カロリーベース 1人当たり国産供給熱量 830kcal 1人当たり総供給熱量 2,237kcal 37% −1
生産額ベース 食料の国内生産額 14.5兆円 食料の国内消費仕向額 21.8兆円 66% +2
摂取熱量ベース 1人当たり国産供給熱量 830kcal 平時の日常生活に必要な摂取熱量 1,850kcal 45% −1

カロリーベースと摂取熱量ベースは、分子が同じ830kcalです。違うのは分母だけです。

カロリーベースの分母2,237kcalは「供給熱量」です。食料需給表の推計方法には、この表の数量は「消費者等に到達した食料のそれであって、国民によって実際に摂取された食料の数量及び栄養量ではない」という注意書きがあります。途中で失われる「減耗量」についても、家庭や食品産業での廃棄や食べ残しは含まないと定義しています。つまり、家庭で捨てられた食品の分も分母に残っています。

摂取熱量ベースの分母1,850kcalは固定値です。資料は根拠を2つ挙げています。成人男性の基礎代謝量(kcal程度)を上回る水準であること。そして、国民健康・栄養調査にある平均摂取熱量の最低値が1,849kcal()であること。この指標は令和4月に閣議決定された食料・農業・農村基本計画で新しく作られ、推移表では令和度から数字が入っています。

生産額ベースは、品目ごとの重さを農家庭先価格などで金額に換えて足し上げます。量が同じでも、値段が上がれば数字は大きくなります。

どの指標でも、輸入飼料で育てた畜産物は国産に数えません。資料には、輸入飼料の分を差し引かない「食料国産率」も並んでいます。カロリーベースで見ると、畜産物の自給率は17%、国産率は66%です。鶏卵に限ると11%と97%になります。

資料と見出しの差

項目 農林水産省の公表資料 報道
取り上げた自給率 37%・66%・45%を併記 見出しは37%のみ
「過去最低」 発表文にも参考資料にも、この表現はない NHK・共同通信・日本農業新聞が見出しに使用
比べた桁 推移表を含めて整数 nippon.comは「小数点以下まで算出すると」と説明
下がった理由 米の消費量の減少と、民間在庫量の増加 日本農業新聞は輸入米の増加を見出しに。共同通信は消費減と輸入米増加の両方

農林水産省の推移表(Excel)を見ると、カロリーベースの37%は令和度が初めてではありません。平成度、平成度、令和度も37%です。整数で並べると、4つの年度が同じ値になります。

nippon.comの記事は、小数点以下まで出すと、これまでの最低だった令和度の37.15%を令和度の37.11%が下回った、と書いています。ただ、農林水産省の発表文、参考資料、推移表のどれにも、小数点以下の値は載っていませんでした。

公表されている830kcalと2,237kcalで割り算すると37.10%になり、報道の37.11%とは一致しません。830と2,237はどちらも整数に丸めた値なので、小数第2位までは公表値から再現できません。「過去最低」は、公表資料には載っていない桁で比べた結果です。

比べた期間の長さにも注意がいります。食料需給表の推計方法によると、食品の可食部の割合などに使う「日本食品標準成分表」は何度か改訂されています。改訂の前後、たとえば平成30〜令和元年度の間や令和度の間は「接続しない」と書かれています。注記に並ぶ版の一覧に照らすと、37%が並んだ平成度、令和度、令和度は、それぞれ別の版で計算された年度です。

米は多く作られたのに、自給率は下がった

食料需給表で、米の数字を前年度と比べます。

米(千トン) 令和度 令和度
国内生産量 7,868 8,043
輸入量 884 1,031
国内消費仕向量 8,451 8,000
在庫取崩しを含めた国産米供給量 8,317 7,601
うち国産米在庫の取崩し 449 ▲442

国内生産量は175千トン増えました。一方で、国産米の供給量は716千トン減っています。

差を生んだのは在庫です。令和度は、それまでの在庫から449千トンを取り崩して国内に回しました。令和度はその逆で、442千トンが在庫に積み上がっています。推移表の注記によれば、米の自給率は平成度から、国内生産量に国産米の在庫取崩し量を足して計算しています。数えているのは「作った量」ではなく「国内に回った国産の量」です。

1人当たりの供給量も、からに減りました。熱量でみると、米の国産熱量は22kcal減っています。総合の国産熱量は28kcal減なので、その大半を米が占めます。資料の寄与度では、全体のマイナス1.1ポイントのうち、米がマイナス0.8ポイントです。

同じ米が、生産額ベースでは逆向きに効いています。資料によると、米の国内価格は48%上がり、国内生産額が増えて自給率を1.9ポイント押し上げました。熱量で数えると自給率を下げ、金額で数えると上げたことになります。

報道が理由に挙げた輸入米の増加も、需給表の数字(884千トンから1,031千トン)で確認できます。農林水産省の発表文は理由として消費量と民間在庫を挙げ、報道の一部は輸入を前に出しました。どちらも同じ資料の中にある数字です。

分母が減っても、自給率は上がる

基本計画は、度にカロリーベースで45%という目標を掲げています。脚注によると、国産熱量975kcalを供給熱量2,190kcalで割った値です。いまの830kcalと2,237kcalに比べると、分子が増え、分母が減る見込みになっています。

分母が減るだけでも自給率は上がります。分子を830kcalのままにして分母を2,190kcalにすると、37.9%になります(本記事での計算)。反対に分子だけ975kcalに増えて分母が2,237kcalのままなら、43.6%です。

資料には書かれていませんが、式からは次のことが言えます。カロリーベースは、国内の生産が増えなくても、国民に供給される食料が減れば上がります。分母を1,850kcalに固定した摂取熱量ベースは、国産の熱量が動いたときにしか動きません。基本計画は摂取熱量ベースにも、度に53%という別の目標を置いています。

分からなかったこと

37.11%と37.15%という小数点以下の値は、農林水産省の公表資料で確認できませんでした。記者向けの説明で示された可能性はありますが、資料からは確認できません。令和度の発表ページは、アクセスが拒否されて開けませんでした。

食品成分表の改訂をまたぐ過去の自給率が、いまの方法でさかのぼって計算し直されているのかどうかは確認していません。長い期間にわたる「過去最低」が同じ物差しで比べられているかは、この記事では判断を保留します。

令和度の値は概算です。需給表の推計方法には、最新年の数値に一部暫定値を含むとあり、確定値で変わる可能性があります。

輸入米が増えた内訳(政府が輸入する分と民間の輸入の別)は確認していません。

出典

  • 農林水産省「令和度食料自給率を公表します」8月 — 発表ページ
  • 農林水産省(参考1)「令和度食料自給率について」(8月差替え版)PDFページ — PDF
  • 農林水産省(参考2)「令和度食料需給表」推計方法の一般原則、参考1の注、参考4の注 — PDF
  • 農林水産省「食料需給表」統計表(令和度概算・令和度確定) — Excel
  • 農林水産省「総合食料自給率(カロリー・生産額)、品目別自給率等」推移表 — Excel
  • 農林水産省「食料自給率とは」 — 解説ページ
  • 「食料・農業・農村基本計画」(令和4月閣議決定)ページ・22ページ — PDF
  • NHK「食料自給率37% 過去最低に コメの価格高騰が低下招く」8月 — 記事
  • 共同通信「度の食料自給率過去最低と農水省」8月(Yahoo!ニュース配信) — 記事
  • 日本農業新聞「<速報>食料自給率37% 過去最低 輸入米増加が影響」8月 — 記事
  • nippon.com「食料自給率、過去最低の度」8月 — 記事

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