新潟日報が2026年9月15日、新潟県村上市が2026年度にシロザケの陸上養殖研究を岡山理科大学へ委託したと報じました。
見出しは「不漁続く『鮭のまち』陸上養殖に望み託し」。
本文は有料公開のため、当サイトで確認できたのはリード文と見出しまでです。
読み取れた事実は、村上市が漁獲量減少の対策として委託に踏み切ったこと、同大が開発した「好適環境水」を使うこと、達成目標が2030年代初めに置かれていることの3点です。
ここで背景として使われる「不漁」は、どの数字を指しているのか。
発表元の速報値に当たって確かめます。
原典に当たる
サケの来遊統計を出しているのは国立研究開発法人 水産研究・教育機構です。
2025(令和7)年漁期の第7報(2026年2月28日現在・3月11日更新)によると、全国のサケ来遊数は693万尾。
前年同期比39%、平年同期比14%で、1989年以降で最も少ない値と記載されています。
定義を押さえておきます。
ここでいう「来遊数」は、沿岸漁獲数と河川捕獲数の合計です。
川に戻った魚の総数を数えたものではなく、獲られた・捕獲された数の集計にあたります。
「河川捕獲数」は同速報が「人工ふ化放流用に捕獲されたサケの数」と明記しており、遡上数そのものとは別物です。
「平年」の定義も明示されています。
1989(平成元)年から2024(令和6)年までの平均値です。
36年分の算術平均で、全国の平年値は5,109万尾になります。
報道との差分
不漁報道では「平年の◯分の1」という表現が使われます。
ところが同じ速報の中でも、地域を変えると倍率が一桁変わります。
以下は第7報の数値と、そこから計算した平年比です。
| 区分 |
2025年 |
平年値 |
平年同期比 |
| 全国 |
693万尾 |
5,109万尾 |
14%(約7分の1) |
| 本州全体 |
71.8千尾 |
11,835.9千尾 |
0.6%(約165分の1) |
| 本州太平洋側 |
30.7千尾 |
11,130.1千尾 |
0.3%(約362分の1) |
| 本州日本海側 |
41.1千尾 |
705.8千尾 |
5.8%(約17分の1) |
村上市が面する新潟は本州日本海側に入ります。
全国の「7分の1」でも、本州全体の「165分の1」でもなく、5.8%=約17分の1が地域に対応する値です。
どれも同じ資料に載っている数字で、どれかが誤りというわけではありません。
なぜそうなったか
本州全体の平年比が0.6%まで下がる理由は、平年値の内訳を見ると構造が分かります。
本州の平年値11,835.9千尾のうち、11,130.1千尾(約94%)を太平洋側が占めています。
本州の平年値は、実質的に岩手・宮城を中心とする太平洋側の過去実績で構成されているということです。
日本海側の平年値は705.8千尾で、一桁小さい。
分母の性格が違うため、同じ「本州」でも比率の意味が変わります。
加えて、平年が中央値ではなく36年の算術平均である点も効いています。
期間の前半に含まれる高水準の年が平均を押し上げるため、直近5年(2021年838.4千尾→2025年71.8千尾)と比べたときより、平年比のほうが小さく出ます。
同じ落ち込みでも、基準の取り方で見え方が変わる構造です。
もう一点、来遊数が漁獲・捕獲ベースである影響も無視できません。
第7報には、種卵確保対策として北海道の日本海区・根室海区・えりも以東海区・えりも以西海区で、操業始期を遅らせたり定置網の垣網の一部を撤去する自主規制が行われたと記載があります。
漁の量を意図的に抑えれば、その分は来遊数にも反映されます。
資源の増減と、漁の結果の増減が、同じ数字の中に混ざっているということです。
採卵側の数字も並べておきます。
2026年2月28日現在の全国採卵数は9億2,081万粒で前年同期比86%、採卵計画数の71%を確保。
うち北海道が8億8,472万粒(計画の83%)を占め、本州は3,610万粒で前年同期比39%でした。
全国では前年の8割強を確保できている一方、本州だけを見ると4割を切ります。
「ふ化放流の材料がどれだけ足りていないか」も、全国で見るか本州で見るかで印象が変わります。
陸上養殖側の規模も確認しておきます。
岡山理科大学の公式トピックス(2026年5月26日公開)によると、村上市から搬入された稚魚は体長8~9センチ・体重5グラム程度で、5月4日時点の生残数は2,080匹。
平均体重23グラム・体長13センチに育ち、35トン水槽へ移されています。
1年で1キロ、2年で1.5~3キロという成長見込みが示されています。
研究の段階であり、本州日本海側の来遊数41.1千尾という数字と直接比較できる規模ではありません。
分からなかったこと
新潟日報の記事本文は有料公開のため未読で、同紙がどの統計を根拠に「不漁」を説明したかは確認できていません。
村上市が公表する委託金額・契約期間も、市の公式サイトでは特定できませんでした。
三面川単独の漁獲数について報道由来の数値が流通していますが、漁協または新潟県の一次資料では裏が取れなかったため、本記事には採用していません。
岡山理科大の生残2,080匹は5月4日時点の値で、その後の推移は公表資料で追えていません。
出典
- 国立研究開発法人 水産研究・教育機構「2025(令和7)年さけます来遊状況(第7報:2/28現在) 2 サケ来遊状況」2026年3月11日更新 https://www.fra.go.jp/shigen/salmon/sokuhou/r07salmon/R7comment_0228_return.pdf
- 同「2025(令和7)年さけます来遊状況(第7報:2/28現在) 3 サケ河川捕獲状況」2026年3月11日更新 https://www.fra.go.jp/shigen/salmon/sokuhou/r07salmon/R7comment_0228_river.pdf
- 同 さけます来遊速報 一覧 https://www.fra.go.jp/shigen/salmon/sokuhou.html
- 岡山理科大学「シロザケの世界初の完全養殖目指し、好適環境水で陸上養殖スタート」2026年5月26日 https://www.ous.ac.jp/topics/detail.php?id=6460
- 岡山理科大学 好適環境水センター https://renkei.office.ous.ac.jp/ercop/index.html
- 新潟日報「不漁続く『鮭のまち』陸上養殖に望み託し…岡山理科大が開発『好適環境水』は村上の食文化守れるか」2026年9月15日(本文有料) https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/906315
※本記事は報道・公開情報をもとに作成した速報であり、内容が後に更新・訂正される場合があります。
最新かつ正確な情報は、一次情報や公式発表をご確認ください。
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