台風31号(インファ)の進路を伝える報道の見出しには「最大瞬間風速65m/s・中心気圧950hPa」という数字が並びました。
この数字は気象庁の発表のどこから取られたのか。
原資料の予報表と照らし合わせると、見出しの数字は台風の今の状態ではなく、5日先(120時間後)の予報の最終行の値でした。
この記事では、見出しに選ばれた行と落ちた行を並べます。
何が報じられたか
TBS NEWS DIGは2026年10月24日21時30分、RSK山陽放送の配信として「【台風情報】最大瞬間風速65m/s・中心気圧950hPa予想「台風31号(インファ)」非常に強い勢力へ…今後の進路、日本への影響は?【気象庁24日19時05分発表】」という記事を掲載しました。
記事の概要文は「台風31号は、マーシャル諸島をゆっくりと西へ進んでいます」と書き出し、気象庁24日19時05分発表の24日18時の実況を表で示す構成になっています。
同じサイトには、同じ台風について気象庁24日4時05分発表を元にした記事もあり、その見出しは「最大瞬間風速60m/s・中心気圧955hPa、非常に強い勢力に発達予想」でした。
半日あまりの間に、見出しの数字が予報の更新に合わせて動いています。
原典に当たる
一次情報は気象庁の台風情報です。
本記事では、気象庁防災情報サイトが公開している台風31号(気象庁の内部番号TC2637)の諸元データを取得しました。
取得できたのは2026年10月25日4時10分発表の版で、見出しの元になった24日19時05分発表の版そのものではありません。
この点は後で「分からなかったこと」に書きます。
25日4時10分発表の内容は次のとおりです。
25日3時の実況は、中心気圧996hPa、中心付近の最大風速25m/s、最大瞬間風速35m/s、位置は北緯11.2度・東経165.4度のマーシャル諸島で、北西へ時速15kmで進んでいます。
種別は台風で、強さと大きさの階級は「-」(該当なし)です。
予報は24時間刻みで5日先まで出ています。
24時間後(26日3時)は980hPa・最大瞬間風速50m/sで「強い」、48時間後は970hPa・55m/s、72時間後は960hPa・60m/sでほとんど停滞、96時間後(29日3時)は955hPa・60m/sでウェーク島近海に進み「非常に強い」、120時間後(30日3時)は950hPa・最大風速45m/s・最大瞬間風速65m/sで南鳥島近海、という並びです。
数字の読み方も気象庁の解説ページで確認しました。
最大風速は10分間平均の風速です。
強さの階級は最大風速で決まり、「強い」は33m/s以上44m/s未満、「非常に強い」は44m/s以上54m/s未満、「猛烈な」は54m/s以上です。
予報円は「予報した時刻に、この円内に台風の中心が入る確率は70%」と定義されています。
予報円の半径は、25日4時10分発表で24時間後が95km、72時間後が300km、120時間後が460kmです。
気象庁は5日(120時間)先までの予報を6時間ごとに発表するとしており、それより先の予報は台風情報には含まれません。
報道との差分
見出しの数字と予報表の各行を並べると、次のようになります(気象庁は25日4時10分発表の値)。
| 時点 |
中心気圧 |
最大瞬間風速 |
強さ |
予報円半径 |
| 実況(25日3時) |
996hPa |
35m/s |
– |
– |
| 24時間後 |
980hPa |
50m/s |
強い |
95km |
| 72時間後 |
960hPa |
60m/s |
強い |
300km |
| 120時間後 |
950hPa |
65m/s |
非常に強い |
460km |
| TBS見出し |
950hPa |
65m/s |
非常に強い |
記載なし |
選択の面では、見出しは予報表の最終行、つまり5日先の値を取っています。
見出しの末尾には「予想」と付いており、予報値であること自体は書かれています。
省略の面では、実況の値(996hPa・35m/s)と、その予報が何日後のものかが見出しから落ちています。
予報円の半径460kmという不確かさの幅も見出しにはありません。
強調の面では、「非常に強い勢力へ」と階級名を前に出し、続けて「日本への影響は?」と問いを置いています。
一方、原資料の120時間後の位置は南鳥島近海で、気象庁の予報はそこで終わっています。
5日先の時点で日本の本州付近に近づくという予報は、取得した資料には含まれていません。
なぜそうなったか
差が生まれる理由は、原資料の形から説明できます。
気象庁の台風情報は、実況1行と予報5行からなる表です。
見出しの字数に入る数字は1組だけなので、どれか1行を選ぶ必要があります。
発達していく台風では、気圧が最も低く風が最も強い行が表の最終行に来ます。
「最大」の数字を取ると、自動的に5日先の値になるという構造です。
更新の頻度も関わっています。
気象庁は予報を6時間ごとに出すため、速報記事は発表のたびに書き直されます。
TBS NEWS DIGでは、24日4時05分発表の版で「60m/s・955hPa」、24日19時05分発表の版で「65m/s・950hPa」と、見出しの数字が予報の更新に合わせて変わっていました。
見出しに発表時刻を入れる形式は、読者がどの版の数字かを確かめるのを助けています。
ただ、その数字が何時間先の値かは、本文の表まで読まないと分かりません。
「日本への影響は?」という問いの形は、この時点の原資料からは答えが出ない問いでもあります。
予報が5日先で終わり、その時点の位置が南鳥島近海だからです。
ここから先の進路は、次の発表を待たないと資料からは確認できません。
これは記事の書き手の意図を推し量った説明ではありません。
予報表の構造と見出しの字数の制約から、同じ選び方が起きやすいという説明です。
分からなかったこと
見出しの元になった気象庁24日19時05分発表の版は取得できませんでした。
気象庁のサイトで公開されているのは最新の発表だけで、本記事では25日4時10分発表の版と比べています。
見出しの950hPa・65m/sは、25日4時10分発表の120時間後の値と一致しました。
ただ、24日19時05分発表でも同じ行の値だったかどうかは、原資料からは確認できていません。
TBS記事の本文全体も取得できず、確認できたのは見出しと概要文と掲載日時です。
他社の見出しとは比べていません。
出典
- 気象庁 防災情報 台風31号(TC2637)諸元データ specifications.json、2026年10月25日4時10分発表 https://www.jma.go.jp/bosai/typhoon/data/TC2637/specifications.json
- 気象庁 発表中の台風一覧 targetTc.json、2026年10月25日取得 https://www.jma.go.jp/bosai/typhoon/data/targetTc.json
- 気象庁「台風の大きさと強さ」 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/typhoon/1-3.html
- 気象庁「台風情報の種類と表現方法」 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/typhoon/7-1.html
- TBS NEWS DIG(RSK山陽放送)「【台風情報】最大瞬間風速65m/s・中心気圧950hPa予想…【気象庁24日19時05分発表】」2026年10月24日21時30分 https://newsdig.tbs.co.jp/articles/gallery/3036072
※本記事は報道・公開情報をもとに作成した速報であり、内容が後に更新・訂正される場合があります。
最新かつ正確な情報は、一次情報や公式発表をご確認ください。
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