2026年10月23日、マーシャル諸島付近の熱帯低気圧について「台風31号発生へ」という見出しの記事が出ました。
記事が取り上げた気象庁の予報は72時間先までです。
これに対し、気象庁の発表データには120時間先までの位置と強さが入っています。
本稿では、記事が使った数字を気象庁と米軍合同台風警報センター(JTWC)の原資料と照らし合わせ、記事に入った部分と入らなかった部分を確かめます。
何が報じられたか
福井新聞社は10月23日午前11時に「台風31号発生へ…気象庁の予想進路、米軍・ヨーロッパの見方 日本への影響は」を公開しました。
記事が示した数字は次の3点です。
- 気象庁の23日午前9時の実況では、熱帯低気圧はマーシャル諸島付近にある。
24日午前9時までに台風に変わる見込み
- 26日午前9時には強い台風に発達し、中心気圧980hPa(ヘクトパスカル)、中心付近の最大風速35m/sになる予想
- 米軍JTWCは23日午前5時の時点で、24時間以内に台風になる可能性を「MEDIUM(中程度)」と評価した。
進路予想はまだ出ていない
ヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)については、民間サイトのアニメーションで5日先まで見られると紹介しただけで、具体的な数字は載っていません。
原典に当たる
気象庁が10月23日10時30分に出した熱帯低気圧情報(識別番号TC2637)の発表データを取得しました。
9時の実況は北緯11.4度・東経166.0度、中心気圧1006hPa、最大風速15m/s、最大瞬間風速23m/sで、「東南東へゆっくり」進んでいます。
予報は5段階です。
- 24時間後(24日9時):1000hPa、18m/s。
区分は台風。
ほとんど停滞。
予報円の半径は130km
- 48時間後(25日9時):994hPa、23m/s。
北へゆっくり進む。
予報円の半径は200km
- 72時間後(26日9時):980hPa、35m/s。
強さは「強い」。
北へ時速10km。
予報円の半径は260km、暴風警戒域は320km
- 96時間後(27日9時):970hPa、40m/s。
東北東へ時速10km。
位置の表記はウェーク島近海。
予報円の半径は330km
- 120時間後(28日9時):970hPa、40m/s。
ほとんど停滞。
北緯16.1度・東経169.7度。
予報円の半径は440km、暴風警戒域は520km
数字の定義は気象庁の解説ページで確認しました。
台風とは、北西太平洋か南シナ海にある熱帯低気圧のうち、最大風速(10分間平均)がおよそ17m/s以上のものを指します。
24時間後の予想が18m/sなので、この時点で台風に変わる見込みとなります。
「強い」は最大風速33m/s以上44m/s未満の階級で、72時間後の35m/sと96時間後以降の40m/sはどちらもここに入ります。
予報円は、その時刻に台風の中心が円内に入る確率が70%の範囲です。
暴風警戒域は、中心が予報円の中を進んだ場合に暴風域(風速25m/s以上)に入るおそれがある範囲を示します。
JTWCについては2つの電文を取得しました。
日本時間23日10時30分(協定世界時01時30分)の熱帯擾乱報(ABPW10)は、この擾乱を「INVEST 97W」と呼び、24時間以内に顕著な熱帯低気圧が発生する可能性を「HIGH」に引き上げています。
電文の末尾にも、再発行の理由は「HIGHへの引き上げ」と書かれています。
同じ時刻には熱帯低気圧発生警報(WTPN21)も出ており、推定風速18〜23ノット、推定最低気圧1005hPa、鉛直シアー10〜15ノット、海面水温29〜30度とあります。
今後24時間については「ほぼ停滞し、やや南へ寄る」という見通しです。
報道との差分
原資料と記事を3つの点で比べます。
| 項目 |
原資料 |
記事 |
| 予報の期間 |
気象庁は120時間先(28日9時)まで |
72時間先(26日9時)まで |
| 最も強い予想 |
96〜120時間後に970hPa・40m/s |
980hPa・35m/s |
| JTWCの評価 |
10時30分の再発行でHIGH |
5時時点のMEDIUM |
| 進む向き |
北へ進んだ後、東北東へ。 その後ほとんど停滞 |
記載なし |
選ばれたのは、発生の見込みと72時間後の強さです。
落ちたのは96時間後と120時間後の予報で、最も発達した段階の数字と、東北東のウェーク島近海へ向かうという進路がここに入っています。
強調されたのは見出しの「日本への影響は」という問いですが、記事の数字だけでは答えが出ません。
日本との距離は本稿で計算しました。
気象庁の予報位置と各地点のおおよその座標を使った球面上の距離です。
120時間後の予報円の中心から南鳥島まで約1,870km、東京まで約3,680kmあります。
同じ時刻の予報円の半径は440km、暴風警戒域は520kmです。
少なくとも120時間先までの気象庁予報では、暴風警戒域は日本の陸地に届いていません。
JTWCの評価がずれた理由は時刻の差です。
記事は5時時点の評価を引き、JTWCは10時30分に評価を引き上げました。
記事の公開は11時です。
ただし、原稿がいつ確定したかは資料から分かりません。
なぜそうなったか
ここから先は資料の構造からの説明で、書き手の意図を示すものではありません。
1つめの理由は、発表のタイミングが重なったことです。
気象庁の熱帯低気圧情報は10時30分に更新されました。
JTWCの再発行も同じ協定世界時01時30分、つまり日本時間10時30分です。
記事が5時時点のJTWCの評価を使っているので、取材はこの更新より前の資料で行われた可能性があります。
ただ、気象庁の72時間後の数字は、取得した10時30分の発表と一致しています。
2つめの理由は、画面や紙面のふつうの見せ方です。
気象庁の予報図は5日先までの予報円を描きます。
一方、報道は「発生」「強い台風」といった区切りのよい時点を抜き出すことが多くあります。
72時間後は強さの表記が初めて付く時点なので、区切りとして選ばれやすい位置にあります。
3つめの理由は、同じ時刻に別の台風が日本の近くにあったことです。
気象庁の11時45分の発表では、台風30号(チャンパー)が石垣島の南南西約160kmにあり、大型で強い台風として955hPa・最大風速40m/sで北北西へ進んでいます。
「日本への影響」への関心はこちらの台風と重なっており、31号の見出しにも同じ問いが付いたと考えられます。
資料からは確認できませんが、検索の増加にも30号への関心が混ざっている可能性があります。
なお、JTWCは台風30号を「TYPHOON 29W (CHAMPI)」と呼んでいます。
気象庁とJTWCでは番号が一致しません。
取得した資料には番号の付け方の違いが書かれていないため、その理由はここでは扱いません。
分からなかったこと
ECMWFの予想進路は今回取得できませんでした。
記事が紹介した民間サイトの表示は数値として取り出せず、ECMWFが公開している資料にも当たれていません。
このため「ヨーロッパの見方」は本稿では評価していません。
JTWCが5時に出したMEDIUMの電文も、原文は見られていません。
120時間より先の進路は、気象庁が予報を出していないため誰にも分かりません。
年間の発生数と比べて31号が多いのか少ないのかも、気象庁の統計に当たれていないため書いていません。
出典
- 気象庁 熱帯低気圧情報 TC2637 発表データ(2026年10月23日10時30分発表) https://www.jma.go.jp/bosai/typhoon/data/TC2637/specifications.json
- 気象庁 台風30号 TC2636 発表データ(2026年10月23日11時45分発表) https://www.jma.go.jp/bosai/typhoon/data/TC2636/specifications.json
- 気象庁 台風の定義 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/typhoon/1-1.html
- 気象庁 台風の大きさと強さ https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/typhoon/1-3.html
- 気象庁 台風情報の種類と表現方法 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/typhoon/7-1.html
- JTWC Significant Tropical Weather Advisory ABPW10 PGTW 230130 https://www.metoc.navy.mil/jtwc/products/abpwweb.txt
- JTWC Tropical Cyclone Formation Alert WTPN21 PGTW 230130 https://www.metoc.navy.mil/jtwc/products/wp9726web.txt
- 福井新聞社「台風31号発生へ…気象庁の予想進路、米軍・ヨーロッパの見方 日本への影響は」(2026年10月23日11時) https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/2729332
※本記事は報道・公開情報をもとに作成した速報であり、内容が後に更新・訂正される場合があります。
最新かつ正確な情報は、一次情報や公式発表をご確認ください。
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