プレジデントオンラインの記事がInfoseekに転載され、中国の高速鉄道を「日本の新幹線の17倍」と紹介しました。
記事は、運賃の高さ、利用者の少ない駅、国有鉄道会社の巨額負債を順に取り上げています。
本稿では、記事に出てくる数字を原典まで辿れるかどうか確かめます。
照合先は、中国国家鉄路集団(以下、国鉄集団)の統計公報と格付報告書、国土交通省の交通政策白書の資料です。
何が報じられたか
記事の筆者は青葉やまと氏で、プレジデントオンラインに2026年8月27日に掲載されました。
見出しに【2026年8月BEST】と付けて、9月23日にInfoseekへ再掲されています。
主な数字と、記事が挙げている出典は次のとおりです。
- 2025年末時点の中国の高速鉄道の総延長は5万400km(出典はチャイナ・デイリー)。
日本の新幹線の約3,000kmの約17倍
- 国鉄集団の負債は2024年時点で1兆ドル(出典はウォール・ストリート・ジャーナル)
- 債務の維持にかかる費用は年250億ドル(記事による推計)
- 採算が取れているのは全体の6%にあたる2,300km区間だけ
- 2010年以降、少なくとも20駅が閉鎖された
- 高速鉄道の運賃は在来線の3〜4倍
- 四川省富順県の駅は待合スペースが1,000人分あるのに、ある日の午後の利用者は20人だった
後半の4項目については、記事の中で出典が示されていません。
原典に当たる
まず中国側の延長です。
国鉄集団の「2025年統計公報」は、業界紙の人民鉄道報が2026年3月2日に掲載しました。
そこには、2025年末の全国の鉄道営業距離が16.5万km、そのうち高速鉄道が5.0万kmと書かれています。
2025年の新線開業は3,109kmで、そのうち高速鉄道は2,862kmです。
国鉄集団が2026年6月25日に出した「2025年度社会責任報告」(中国新聞網が報道)では、同じ延長をもう1桁細かく出しています。
第14次5か年計画の期間(2021〜2025年)に、高速鉄道は3.79万kmから5.04万kmへ32.98%伸びました。
記事の「5万400km」はこの5.04万kmと一致します。
1年前の2024年末の値は、国鉄集団の2024年度財務決算の公表文にある4.8万kmです。
なお、統計公報には、どの速度から「高速鉄道」と数えるのかという定義は書かれていません。
次に日本側です。
国土交通省の資料(出典表記は『令和7年度交通政策白書』)によると、2024年3月に北陸新幹線の金沢・敦賀間が開業し、新幹線の総延長は2,956kmになりました。
グラフ上の数値は2,955.5kmです。
資料の開業年表には山形新幹線と秋田新幹線が載っていないため、在来線を改良した、いわゆるミニ新幹線は含まれていないと読めます。
ただし、資料に明記はありません。
新幹線の法律上の定義は全国新幹線鉄道整備法第2条にあり、「その主たる区間を列車が二百キロメートル毎時以上の高速度で走行できる幹線鉄道」とされています。
最後に財務です。
格付会社の中誠信国際が作成した「中国国家鉄路集団有限公司2025年度跟踪評級報告」は、2025年6月18日に上海証券取引所で開示されました。
各年の監査済み決算から整理された値として、次の数字が載っています。
2024年末の総資産は97,626.94億元、資産負債率は63.51%です。
借入金と社債を合わせた「総債務」は、2022年が51,231.08億元、2023年が51,357.91億元、2024年が51,206.77億元でした。
純利益は2022年がマイナス695.61億元、2023年が33.04億元、2024年が38.81億元です。
2024年に「配当・利益分配または利息の支払い」で出ていった現金は1,275.77億元でした。
報道との差分
| 項目 |
記事 |
原典 |
差 |
| 中国の高速鉄道延長 |
5万400km |
5.04万km(社会責任報告)、5.0万km(統計公報) |
一致 |
| 新幹線延長 |
約3,000km |
2,956km(交通政策白書資料) |
丸め |
| 倍率 |
約17倍 |
5.04万÷2,956=17.05 |
一致 |
| 負債 |
1兆ドル |
総資産×資産負債率=約6.2兆元(本稿の計算)。 総債務は5.12兆元 |
為替の前提が分からず照合できない |
| 債務の維持費 |
年250億ドル(推計) |
利息・配当の支払い現金が1,275.77億元 |
推計方法が示されていない |
| 採算区間6%・2,300km |
記載あり |
辿れず |
— |
延長と倍率は原典どおりで、割り算も合っています。
ずれがあるのは負債のほうです。
格付報告書の資産負債率は、総資産に対する負債の総額の比率です。
これから逆算すると、2024年末の負債総額は約6.2兆元になります。
一方、有利子の借入に当たる「総債務」は5.12兆元です。
このように「負債」と「債務」は範囲の違う数字なので、ドル換算する前にどちらを指すのかを決めておく必要があります。
また、総債務は2022年から2024年まで、ほぼ横ばいか微減でした。
なぜそうなったか
1つ目は、比べている指標です。
17倍という数字は延長だけを比べたもので、どれだけ造ったかは分かります。
しかし、どれだけ使われているか、採算が取れているかは、延長からは読み取れません。
記事の見出しは、延長の倍率(原典で確認できる事実)と「駅はガラガラ」(1つの駅で、ある日の午後に見た様子)を一文につないでいます。
1駅の観察は、全国の利用率を代表する数字にはなりません。
2つ目は、数える範囲です。
日本の2,956kmにはミニ新幹線が入っていないと読めます。
中国の統計公報には速度の定義が書かれていません。
ですから、17倍は両国がそれぞれの基準で数えた延長どうしの比であり、同じ物差しで測ったことまでは資料から確認できません。
3つ目は、採算の割合の母数です。
資料からは確認できませんが、2,300kmを5.04万kmで割ると4.6%です。
2020年末の3.79万kmで割ると6.1%になります。
記事の「6%」は、より古い時点の総延長を母数にした数字である可能性があります。
4つ目は「採算度外視」という評価と決算の関係です。
格付報告書を見ると、純利益は2022年に赤字でしたが、2023年と2024年は小幅な黒字でした。
一方で報告書は、返済能力の根拠として、政府が鉄道建設債を政府支持債券と位置づけていることを挙げています。
記事の「補助金がなければ黒字化できない」という主張と、決算上の黒字は、両方とも成り立ちえます。
ただ、補助がどれだけ利益を押し上げているかは、報告書にある数字だけでは切り分けられません。
分からなかったこと
採算区間の「6%・2,300km」、閉鎖された「少なくとも20駅」、運賃が「在来線の3〜4倍」という数字は、どれも記事の中に出典がなく、原典に辿れませんでした。
富順駅の観察が行われた日付も分かりません。
記事が出典としているチャイナ・デイリーとウォール・ストリート・ジャーナルの元の記事は、本稿では確認していません。
1兆ドルという数字がどの時点のどの為替レートで換算されたのか、負債総額と総債務のどちらを指すのかも不明です。
中国の「高速鉄道」の速度の定義は、今回当たった統計公報と社会責任報告には書かれていませんでした。
出典
- 中国国家鉄路集団有限公司2025年統計公報(人民鉄道報、2026年3月2日) https://peoplerail.com/newszb/html/2026-03/02/content_2_61234.htm
- 国鉄集団2025年度社会責任報告に関する報道(中国新聞網、2026年6月25日) https://www.chinanews.com.cn/gn/2026/06-25/10646852.shtml
- 国鉄集団2024年度および2025年第1四半期の財務決算公表(国鉄集団、2025年5月6日) http://www.china-railway.com.cn/xwzx/ywsl/202505/t20250506_144914.html
- 中誠信国際「中国国家鉄路集団有限公司2025年度跟踪評級報告」(上海証券取引所開示、2025年6月18日) http://static.sse.com.cn/disclosure/bond/announcement/corporate/c/new/2025-06-18/127921_20250618_YCPU.pdf
- 国土交通省「新幹線路線延長(km)の推移」(出典表記『令和7年度交通政策白書』) https://www.mlit.go.jp/Road25/policy/pdfs/tetsudo-02.pdf
- 全国新幹線鉄道整備法 第2条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC1000000071
- 青葉やまと「習近平が採算度外視で広げた中国高速鉄道の末路」(プレジデントオンライン初出2026年8月27日、Infoseek転載2026年9月23日) https://news.infoseek.co.jp/article/president_119252/
※本記事は報道・公開情報をもとに作成した速報であり、内容が後に更新・訂正される場合があります。
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