名古屋税関が2026年9月16日に公表した8月分の管内貿易概況(速報)では、愛知・岐阜・三重・静岡・長野の5県の貿易黒字が前年同月より13.2%少ない6,558億円でした。
報道の見出しは黒字の減少を「原油高騰」で説明しています。
この記事では税関の統計表まで戻り、原油の輸入額の増加を「値段」と「量」に分けました。
そのうえで、見出しに入らなかった数字を並べます。
何が報じられたか
中日新聞の経済ニュースサイト「中日BIZナビ」は、2026年9月16日18時34分に「原油高騰の影響続く」「貿易黒字2カ月連続減」という見出しの記事を配信しました。
記事は名古屋税関の発表をもとに、中部5県の8月の貿易収支(輸出額から輸入額を引いた額)が前年同月比13.2%減の6,558億円の黒字だったこと、黒字の減少が2カ月続いたことを伝えています。
背景として、記事は中東情勢の緊迫化にともなう原油価格の上昇を挙げ、輸入額が高い水準で続いていると説明しています。
発表元は名古屋税関です。
公表資料は「令和8年8月分 管内貿易概況(速報)」で、要旨のPDFと統計表(Excel)が税関のサイトで公開されています。
8月分は速報値で、今後の確報で数字が改定されることがあります。
原典に当たる
名古屋税関の資料でいう「管内」は、愛知・岐阜・三重・静岡・長野の5県です。
資料の注記によると、集計の基準は輸出入の手続きをした貨物が置かれていた場所を管轄する税関の官署です。
企業の本社所在地や工場の所在地で数えた数字ではありません。
たとえば5県の企業が製造した品物でも、東京や大阪の港から輸出されれば、この統計には入りません。
統計表の総括表(P1)で、2026年8月の数字は次のとおりです。
- 輸出額:2兆1,283億円(前年同月比15.2%増、全国に占める割合21.2%)
- 輸入額:1兆4,725億円(同34.8%増、全国に占める割合13.2%)
- 差引額(黒字):6,558億円(同13.2%減)
前年同月(2025年8月)の数字は、輸出額1兆8,478億円、輸入額1兆921億円、差引7,557億円でした。
1年でみると、輸出は約2,805億円増え、輸入は約3,804億円増えています。
輸入の増え方が輸出を約1,000億円上回ったため、黒字が縮みました。
輸入の増加に何が効いたかは、同じ統計表の輸入品目別の表(P3)に載っています。
「原油及び粗油」(要旨PDFでの表記は「原粗油」)の8月の輸入額は2,308億円で、前年同月比94.7%増でした。
資料には「寄与度」という指標も載っています。
寄与度は、品目ごとの増減が総額の伸び率を何ポイント動かしたかを示します。
原油の寄与度は10.3ポイントで、輸入全体の伸び率34.8%のうち最も大きい部分です。
ほかに増加が大きかった品目として、資料は液化天然ガス(1,022億円、47.3%増、寄与度3.0ポイント)と、アルミニウム及び同合金(625億円、83.5%増、寄与度2.6ポイント)を挙げています。
同じ表には数量も載っています。
原油の8月の輸入量は219万8,429キロリットルで、前年同月比23.8%増えていました。
金額を数量で割った1キロリットルあたりの単価は、税関の要旨PDFで10万4,995円です。
前年同月の6万6,748円から57.3%上がっています。
報道との差分
原資料と見出しを並べると、次の差があります。
| 項目 |
税関資料(2026年9月16日公表) |
中日BIZナビの見出し |
| 黒字の増減 |
6,558億円、前年同月比13.2%減、2カ月連続の減少 |
「貿易黒字2カ月連続減」 |
| 輸入増加の要因 |
原油(寄与度10.3)、液化天然ガス(3.0)、アルミニウム(2.6)など品目別に記載。 背景となる国際情勢の記述はない |
「原油高騰の影響続く」 |
| 原油の中身 |
金額94.7%増=単価57.3%増×数量23.8%増 |
記載なし |
| 輸出 |
2兆1,283億円、15.2%増(自動車・石油製品などが増加) |
記載なし |
| 全国との比較 |
全国の差引は1兆1,056億円の赤字(前年同月は2,941億円の赤字) |
記載なし |
見出しが省いた数字は3つあります。
1つ目は原油の数量です。
単価の上昇と数量の増加を掛け合わせると、金額の伸びになります(1.573×1.238≒1.947)。
対数で割り振る概算では、原油の金額の増加のうち約7割が単価、約3割が数量によるものです。
「高騰」という見出しは単価の側だけを切り取っています。
2つ目は、原油以外の輸入です。
原油の輸入額は前年同月から約1,123億円増えましたが、これは輸入全体の増加約3,804億円の3割程度です。
石炭・液化天然ガス・石油製品などを含む「鉱物性燃料」全体でも、増加分は約1,694億円で、輸入増の約45%にとどまります。
残りの半分強は、化学製品・原料別製品・機械類など、燃料以外の品目の増加です。
3つ目は輸出の伸びです。
輸出は15.2%増と、この1年で最も大きい部類の伸びでした。
黒字が減った理由は輸出が落ちたからではありません。
輸入が輸出以上に伸びたことです。
なぜそうなったか
見出しの切り取り方には、資料の構造から説明できる部分があります。
まず、税関の要旨PDFは、総額の直後に「主な増減品目」を寄与度の順に並べる作りです。
輸入の欄の先頭は原粗油で、寄与度10.3ポイントは他の品目を大きく引き離しています。
発表資料を上から読むと、最初に目に入る要因が原油になります。
見出しがその最上段を拾うのは、資料の並び順どおりの読み方です。
次に、単価と数量の内訳は要旨の最初のページには載っていません。
資料の5ページ目の品目別の推移表か、Excelの統計表まで進まないと出てきません。
締め切りのある速報記事で数量まで分解しないのは、紙面の制約として自然です。
ただしその結果、量の増加分まで「高騰」の一語にまとまっています。
円安の影響も資料からある程度読めます。
要旨PDFの参考欄によると、8月の税関長公示レートの加重平均は1ドル160.64円でした。
前年同月の147.73円と比べて8.7%の円安です。
この為替の変化を原油の円建て単価の上昇57.3%から割り引くと、ドル建ての上昇は4割台半ばになります。
これは概算です。
資料からは確認できませんが、このレートは全品目の加重平均で、原油の取引だけのレートではないためです。
円建ての「高騰」の一部は、原油そのものの値上がりでなく円安によるものと考えられます。
最後に、記事が背景として挙げた中東情勢は、税関の資料には書かれていません。
税関の概況は品目と地域の数字を示す資料で、価格が動いた理由は扱っていません。
背景の説明は報道の側で加えられた情報です。
資料の数字そのものとは別の層にあります。
分からなかったこと
原油の輸入先の国別の内訳は、今回取得した要旨と統計表の範囲では確認できませんでした。
そのため、中東からの輸入が増えたのか、別の地域からの調達が増えたのかは分かりません。
原油の数量が23.8%増えた理由(在庫の積み増し、精製・発電需要、前年の反動など)も、資料には書かれていません。
報道が挙げた「中東情勢」と輸入の数字の関係は、この資料だけでは検証できません。
ほかの報道機関の見出しは検索では見つからず、各社の比較はできていません。
8月分は速報値なので、確報で数字が変わる可能性があります。
出典
- 名古屋税関「令和8年8月分 管内貿易概況(速報)の要旨」2026年9月16日公表(PDF) https://www.customs.go.jp/nagoya/boueki/sokur-g0808.pdf
- 名古屋税関「令和8年8月分 管内貿易概況(速報)統計表」2026年9月16日公表(XLSX、P1総括表・P3輸入主要概況品別表) https://www.customs.go.jp/nagoya/boueki/sokur-s0808.xlsx
- 名古屋税関「令和8年8月分 名古屋港貿易概況(速報)の要旨」2026年9月16日公表(PDF) https://www.customs.go.jp/nagoya/boueki/sokur-ng0808.pdf
- 名古屋税関「管内貿易概況」資料一覧ページ https://www.customs.go.jp/nagoya/boueki/download_kannai.htm
- 中日BIZナビ「原油高騰の影響続く 貿易黒字2カ月連続減 8月の中部5県貿易概況」2026年9月16日配信 https://biz.chunichi.co.jp/news/article/10/130629/
※本記事は報道・公開情報をもとに作成した速報であり、内容が後に更新・訂正される場合があります。
最新かつ正確な情報は、一次情報や公式発表をご確認ください。
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