米中間選挙の政治広告費が過去最高になり、2024年の大統領選を上回るという報道がありました。
日本円で約1兆7700億円とされています。
元の数字は米国の広告調査会社AdImpactが出したもので、その発表文では「予測(projects)」という扱いです。
選挙はまだ終わっておらず、支出の実績として確定した数字ではありません。
この記事では、その数字が何を数えたものか、見出しになる過程で何が落ちたのかを、原資料に戻って確かめます。
何が報じられたか
題材はTVerで配信されたニュース映像で、見出しは「米中間選挙 政治広告費が過去最高に…おととしの大統領選も上回る 日本円で約1兆7700億円」です(URLは出典欄)。
この見出しにある数字は3つです。
過去最高という順位、2024年の大統領選より多いという比較、日本円で約1兆7700億円という金額です。
見出しの元になった数字は、米国の政治広告を集計しているAdImpactが2026年6月11日に自社サイトで公表した予測です。
AdImpactは、2026年の選挙サイクル全体の広告費を116億ドルと見込みました。
その後、業界メディアのppc.land(2026年10月5日)やpolitical.org(2026年10月16日)も、同じ116億ドルを予測値として引いています。
political.orgによると、AdImpactは2026年10月14日に、サイクルの支出額と今後の予約額の合計が100億ドルを超えたと発表しました。
TVerの番組ページは本記事の作成時に本文を取得できませんでした。
映像の中でどこまで「予測」と説明されていたかは確認できていません。
そのため、以下の比較は見出しの文言に限ります。
原典に当たる
AdImpactの発表文(2026年6月11日)に書かれている数字を整理します。
総額は116億ドルの予測です。
比べる対象として、2022年の中間選挙が89億ドル、2024年の大統領選サイクルが112億ドルと書かれています。
この3つの数字はどれも同じ社が同じ集計方法で出したもので、比較は社内で一貫しています。
選挙の種類ごとの予測は次のとおりです。
上院は34億ドルです。
前回予測の28億ドルから引き上げられ、2022年比48%増、2024年比27%増とされています。
下院は20億ドルで、前回予測の22億ドルから下がりました。
区割り変更で28の選挙区の接戦度が下がったことが理由とされています。
知事選は24億ドルで、前回予測の19億ドルから上がりました。
州レベル以下の選挙(downballot)は30億ドルで、1サイクルとして過去最高とされています。
州議会選は6億9800万ドルで、2024年比17%増です。
州以下の選挙と州議会選の合計は37億ドルで、2022年の32億ドルを上回るとされています。
媒体ごとの予測も出ています。
地上波テレビは56億ドルで総額の48%です。
2025年9月に出した前回予測の53億ドルから引き上げられました。
ネット経由でテレビ画面に流す配信広告(CTV=Connected TV)は25億ドルから27億ドルに上方修正され、構成比は23%です。
Facebook・Google・Snapchat・Xのデジタル広告は16億ドルで、当初予測から9%上がりました。
集計の範囲について、発表文は自社の観測網を説明しています。
毎日10億件を超えるテレビ広告の放映を監視し、米国の全210市場と4万1000以上の郵便番号区域をカバーし、9万を超える広告主を追跡しているとのことです。
ただし、「サイクル」が何年何月から始まるのか、金額に物価調整を入れているのかは、発表文に書かれていません。
押さえておくべき点が1つあります。
この116億ドルは、2025年9月の初回予測から改定を重ねた数字です。
上院・知事選・地上波は引き上げられ、下院は引き下げられました。
予測は選挙戦の情勢に合わせて動くもので、最終的な実績値ではありません。
報道との差分
原典と見出しの表現を要素ごとに並べます。
| 要素 |
AdImpact原典(2026年6月11日) |
TVer見出し |
| 数字の性質 |
予測(projects) |
「過去最高に」(確定したように読める) |
| 2024年との比較 |
予測116億ドル対実績112億ドル |
「大統領選も上回る」 |
| 金額の単位 |
米ドル |
円(約1兆7700億円) |
| 差の大きさ |
4億ドル(約3.6%) |
書かれていない |
| 途中の実績 |
10月14日時点で支出と予約の合計が100億ドル超(political.org経由) |
書かれていない |
1つ目の差は時制です。
原典は「達する見込み」と書いていますが、見出しの「過去最高に」「上回る」は、言い切りの形で終わっています。
予測であることを示す語が見出しに入っていません。
2つ目は差の幅です。
116億ドルと112億ドルの差は4億ドルで、割合にすると約3.6%です(両方の数字からの計算)。
AdImpact自身が前回の予測から上院だけで6億ドル引き上げているので、予測の改定幅と同じくらいの差で「上回る」かどうかが決まっていることになります。
3つ目は円換算です。
116億ドルを1兆7700億円とするには、1ドルあたり約152.6円で換算する必要があります(逆算)。
番組がどの日のどのレートを使ったかは、見出しからは分かりません。
為替レートが数円動くだけで円の金額は数百億円変わるので、円の数字は為替レートの選び方にも左右されます。
なぜそうなったか
見出しが予測を確定事項のように見せた理由を、資料の構造から考えます。
番組の制作意図を示す資料はないので、以下は表現の性質についての説明です。
1つ目は、原典の見出しそのものの形です。
AdImpactの発表文のタイトルは「2026年選挙サイクルが過去最高の116億ドルに達する」という形で、予測の結果を先に言っています。
本文で「projects」と書いていても、タイトルの段階で「記録」という語が中心に置かれています。
二次報道がタイトルの骨格を引き継ぐと、予測であることを示す語が抜けやすくなります。
2つ目は、比較の相手です。
「中間選挙が大統領選を上回る」という組み合わせは、大統領選の年の方がお金がかかるという通常の順序が逆になったことを示します。
ppc.landの記事も、中間選挙は安く済む方の選挙だという前置きを置いてから、この逆転を中心に書いています。
逆転は見出しにしやすい材料ですが、差が3.6%しかないという情報は、その逆転の印象を弱めてしまいます。
そのため、短い見出しでは落とされやすい要素です。
3つ目は、円への換算です。
日本の視聴者向けに円にすること自体は必要な加工です。
ただし、1兆円を超える数字を出すと、ドルで書かれていた予測という性質よりも、金額の大きさの方が前に出ます。
4つ目は、10月の途中経過の扱いです。
10月14日の100億ドルという数字は、すでに使ったお金とこれから流す枠の予約を合わせたものです(political.orgの説明による)。
予約は取り消されることもあるので、これも実績とは言えません。
それでも、実績が2024年に近づいてきたという報道が重なると、予測と実績の区別がつきにくくなります。
分からなかったこと
TVerの番組ページは本文を取得できず、映像の中で「予測」「見込み」と説明されていたかどうかは確認できませんでした。
見出しにない説明が本編に入っている可能性はあります。
円換算に使った為替レートの日付も分かっていません。
AdImpactの発表文には、集計を始めた日、物価調整の有無、ケーブルテレビ・ラジオなど媒体別の内訳に出てこない部分の金額が書かれておらず、合計116億ドルの全体の内訳はたどれませんでした。
2024年の112億ドルがいつ確定した数字なのかも、今回の発表文からは確認できていません。
選挙後に実績値が出たら、予測との差を改めて確かめる必要があります。
出典
- AdImpact「AdImpact Reveals 2026 Election Cycle to Reach Record $11.6 Billion in Ad Spending」2026年6月11日 https://adimpact.com/blogs/adimpact-reveals-2026-election-cycle-to-reach-record-11.6-billion-in-ad-spending
- political.org「2026 Midterms Could Become the Most Expensive Election Cycle Ever, AdImpact Data Show」2026年10月16日 https://political.org/2026/10/16/2026-midterms-could-become-the-most-expensive-election-cycle-ever-adimpact-data-show/
- ppc.land「Midterm ad spending overtakes the 2024 presidential race」2026年10月5日 https://ppc.land/midterm-ad-spending-overtakes-the-2024-presidential-race/
- TVer「米中間選挙 政治広告費が過去最高に…おととしの大統領選も上回る 日本円で約1兆7700億円」 https://tver.jp/episodes/epdayvfvoj
※本記事は報道・公開情報をもとに作成した速報であり、内容が後に更新・訂正される場合があります。
最新かつ正確な情報は、一次情報や公式発表をご確認ください。
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